家族葬エピソード240:「大きな百合の花」

故人様は90代の女性でした。

朝、ご挨拶にうかがうと、式場には喪主である長男様と故人様のご主人がいらっしゃいました。
椅子に座り遺影写真をみつめながら静かにお話しされているお二人でしたが、ご主人様は私をみつけると思い立ったように立ち上がり、こちらに急ぎ足で歩いてこられました。

ニコニコと同じ質問を繰り返すご主人様。
慌てて制止する息子様。

お父様は認知症を患っておられました。
困っている様子の息子様でしたが、私が介護士の免許を持っていることを伝えると安心され、それからしばらく3人でお話しさせていただきました。

故人様はしっかり者でいつもハツラツと行動していた方で、穏やかだったご主人が病気を患っても明るく元気に支え、晩年も頑張ってこられたそうです。

そんな会話の最中にも、時々お父様はしきりに何かを伝えようとしています。
きっと異変を感じているのでしょう。

奥様がいない。と。

式場の準備は整い、お式までの時間も充分なこともあり、お茶をお勧めしました。
三人でイスにこしかけ、お話を聞いていると、お父様も次第に落ち着かれ普段の様子に戻ったようです。
穏やかな表情になり奥様のお写真をみつめていらっしゃいました。

そして、
「あの写真、いいなぁ」
ポツリとつぶやきました。

それからお式の間、お父様は終始落ち着いておられました。

喪主様のご挨拶では、やはりお父様のおはなしがありました。

「母は父のことが気がかりで、又、家族のことも今でも心配していると思います。
でも、みんなでしっかりみていくから安心してゆっくり体をやすめて」
と。

親族の皆様はうんうんと頷きながら涙を拭われていました。


お別れの時。

お柩の中には沢山のお花と故人様のお好きだったおまんじゅうが納められました。

ご主人様は、眠っている奥様に穏やかな笑顔で、手に持たれた大きな百合の花を手向けていました。

そんなご主人様をみていると、とても良いご夫婦だったんだなぁと胸が熱くなりました。


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